ゴールドラッシュで一番儲けるのは、ツルハシやジーンズを売った人って有名だよね。百田尚樹さんの「夢を売る男」読みましたわ~
永井産業
・夢を売る男読んだ感想だよ
・日本語が書けるから小説書けると思う人ってたくさんいるよね
・夢を見る人に夢を売る人が一番儲けられるよね!!
脂質糖質炭水化物足りてますか?
おやつは心の栄養素
低所得童貞子供部屋おじさんの唯唯です。
個人的に、同郷のくどうれいんさんの「氷柱の声」を推していたので少し残念です。
(中身読んだわけじゃなく、同郷というだけで推してたんですけどね)
賞発表後気になっているのは「テスカトリポカ」です。
書店に並んだ表紙のインパクトたるやものすごいですよね!!
アステカ文明の神様だったり、ゴッドイーターでは序盤のボスだったりと名前を知っている人も多いと思います。
くどうれいんさんに話を戻すと、「氷柱の声」は高校当時に東日本大震災に遭遇し、忘却していくことを怖いと感じる女学生のお話みたいです。
盛岡・高校当時に震災があったという点シンパシーを感じてしまいます。
お前ごときがシンパシー感じるな!
とおしかり受けそうですが。
それにしても、初小説が芥川賞候補になるって凄い才能と努力ですよね。
尊敬します。
そんな才能豊かな人もいれば、才能はないけれど「本を出版したい」という要求を持った人は日本にたくさんいるようです。
僕も今でも「なろう」とかラノベ新人賞で一発あたんねえべか? なんて妄想をガソリンにシコシコ小説書いてたりします。
今回はそんな人の欲求を金に変えて「ミダス王の手」のごとき商売をしている自主出版会社の物語
百田尚樹さんの「夢を売る人」が面白かったよ!! というお話です。
夢を売る男
それでは、百田尚樹著「夢を売る男」 幻冬舎文庫 の感想を書いていきます。
あらすじ
牛河原勘治(ウシガワラ カンジ)は、丸栄社という出版社に勤めている。
丸栄者には様々な理由から自分の本を出版したいと考える(しかし残念ながら文才に乏しく一般的な出版社からは相手にされない)人が原稿を送ってくる。
この出版社では、そんな出版意欲を持つ人々に「ジョイントプレス」という形式を提案し、本を出したいという夢をかなえている。
「ジョイントプレス」とは、著者と出版社が費用を折半することで、一般的には出せない内容の本でも書店に並べることができるのだ。
一冊の本を世に出すためには数百万円~の費用がかかるため、何でもかんでも出せばいいというものではない。
そこでうんびゃく万円のうち、一部を著者本人が負担することで売れないリスクをケアし、顧客が望むものを出版できるのだ。
類似した形式として「自主出版」もあるが、ジョイントプレスと自主出版は似て非なるものである。
丸栄社では、印刷所で発行する同人誌や自主出版の類とは異なり、渡された原稿をそのまま本にするのではなく編集と校正を経てISBNコードを付与されてから出版する。
さらに書店の棚を借り切る契約を結んでおり、ジョイントプレスで発行した本は確実に全国の書店に並ぶし国立国会図書館にも収納されるのだ。
というのが顧客向けのプレゼン。
実際に本は出しているし、書店に並ぶのも本当だが、出版しているのは1,000部なので、一般的にイメージするような書店に並ぶ作品とはかけ離れている。
さらに、著者本人負担分は100万円を超えるが、それだけの金があれば出版費用を差し引いても必ず利益が残る。
丸栄社はノーリスクで粗利をもらえるというシステムだ。
本を出したい人
丸栄社に訪れる人々は様々だ。
- 「太宰の再来」と揶揄される作品「墜落」を出版しようとする文学青年
- ジョイントプレスを何度も利用している太客の寺島夫人
- 進路が決まっていない大学生
- ジョブズになりたいといい続けているフリーター
- 自分の教育方針を認めてほしい母親
彼らは様々な経緯や理由があって丸栄社に原稿を持ち込んでいるが、出版したいという欲求で一致している。
牛河原たちはそんな彼らに「夢を売る男」なのだ。
牛河原の主張
仕事の合間に新人編集(前職は歯科技工士)と出版談義を交わす場面が挟まれるが、そこでは牛河原の、あるいは作者自身の文学や出版文化に関する主張が語られている。
読書(小説)は終わりつつある娯楽
最も強く語られるのは、小説という娯楽の立ち位置についてだ。
かつては文化の中心にあった小説・文学も、今では土俵際に追い込まれているという。
作中で引用された『日本人の生活時間2010』によると、当時の平均読書時間は一日当たり13分らしい。
ちなみに2020年のデータを見ると、雑誌・漫画書籍を読んでいる人はサンプルのうち 平日:13.7% 土曜日:16.8% 日曜日:15.8%
全体の平均読書時間は 平日:11分 土曜日:17分 日曜日:15分 という結果になっており、単純平均すると一日14.333333...分が日本人の平均読書時間となっているようだ
これはコミックや雑誌の読書時間も含んでいるため、文字の多い本を読んでいる人はさらに少なく、その中で小説を読んでいる人はかなりの希少種といえる。
2021年現在、インターネットに接続すれば無数の娯楽にあふれているので当然といえば当然のことだろう。
YouTubeを開けば、今を時めくYouTuberが綺羅星のごとく並んでいるし、顔を出さないVtuberがどの時間帯にも配信を行っている。知識を得たければビジネス系・要約系の動画を見ればいい。
アマゾンプライム・アニメチャンネル・各種サブスクリプション動画配信サービスを見れば、過去の名作から最新作まで様々なコンテンツを見ることができる。
アダルトなものが見たいときにはFANZAやDLsiteに接続すれば好みのものが見つかるだろうし、限りなく違法に近い状態だがアダルト動画投稿サイトも絶好調営業中だ。
こんなに娯楽が充実しているのに、わざわざオフラインの、文字しか書いてない本を読む人がいるだろうか? いたとしてもかなりの物好きだ。
こんな内容のないようなブログを読んでいる人はさらに希少種の暇人だろうが。
とまれ、小説というのはすでに文化の中心から外れた、カネになりづらい娯楽であるというのは間違いないだろう。
漫画や動画やアニメーションで嚙み砕かれた情報があるというのに、わざわざ文字から情報を拾って脳内で自分なりに再構築するなんて面倒な作業誰がしたいものだろうか。
そんなことをしている間に要約系動画なら5本以上は見られるのだ。
コスパを重視する人は本など読まずスマホをネットに接続することを選ぶだろう。
それでも増え続ける出版希望者
本が読まれないといわれて久しいが、出版したいという人が減ったという話は聞こえてこない。
むしろ出版したいと望む人は増え続けているのではないだろうか。
特にデータなどない個人の感想にすぎないが、なろう小説の出版や有名インフルエンサーの書籍化など、本を出すことのスター性が高まっているのかもしれない。
書籍化すればアニメの原作になるかもしれない。
書籍化すればインフルエンサーのように人を集めることができるかもしれない。
そのような動機が人々の出版意欲を高めているのだろうと予想できる。安直だけどね
そして、出版されたものがすべて読まれるわけがなく、また読まれない書籍が倉庫や裁断場に送られていくのだろう。
出版したい人は多いが企業が出したい本はそんなに多くない。
できるだけ当たるとわかっている原稿だけを本にしたい。
そんな需要と供給のギャップが牛河原たちのビジネスチャンスとなるのだ。
「ゴールドラッシュのときに儲けたのは、金を掘っていた人ではなく、ショベルやテントを売っていた人だった」――ピーターリンチ
という格言がズバリ示す通りだ。
作家にもいろいろいる
牛河原(もしくは百田尚樹)は作家たちにも苦言を呈す。
「才能は金のある世界に集まるんだ(中略)小説の世界に入ってくるのは、一番才能のない奴だ。金が稼げない世界に、才能のある奴らが集まってくるはずがない」
p176
「才能もないのに作家でございとプライドと要求だけは高くて、始末に負えない」
p178
「ぐちゃぐちゃ文句言う前に、売れる本を書きやがれって言いたいよ。売れる本さえ書けば、こっちはいくらでも刷ってやるし、広告だっていくらでもしてやる」
p180
作家の中には売れない作品を書いて、それでも刷り部数が多く広告が大きければ売れるはずと思っていたり、売れないことが美学と言ったり、勝手に小説誌に連載を始めてしりすぼみや未完でおわってしまったりetc...
大手出版社ですらそんな問題児がいると嘆きます。
過去の売れっ子作家たちについても、読者の開拓を怠り、既存読者が離れて行って作家として終わると切り捨てている。
返す刀で
「かといって、元テレビ屋の百田某みたいに、毎日全然違うメニューを出すような作家も問題だがな……まあ、直に消える作家だ」
とちゃっかり自分を卑下することも忘れない。
”いい”文章とは??
文学談義は「いい文章とはなにか?」という話題に移る。
ここで作者は
良い文章=リーダビリティの高い文章
とはっきり言いきってしまう。
実際百田作品の特徴の一つに、読みやすい短文構成があげられる。
「ページ下半分はメモ帳」と揶揄されるあかほり作品などライトノベルまでとはいかないが、地の文を短くするこだわりが見て取れる。
地の文を短く区切るのは、浅田次郎作品にもよく見られる。
句点が多く、一文に多くを入れすぎないことで、リーダビリティを高めているのだろう
ちなみに、その逆と言えるのが小谷野敦作品だろう。
小説も新書も、これでもかこれでもか! と読点でつなぎ、入れ子構造も多用している
リーダビリティは低いが、文学的な文章に見える。
まとめというか感想
全体を通して読んだ感想は
「出版界おもしれ―! これって裏重版出来みたいなもんじゃん!!」
と感じた。
現在の出版業界が抱える問題を作者なりに分析し物語として構築しており、ページをめくる手が止まらなかった。
これからに活かすとしたら
きれいな青い海を漂うよりも、レッドオーシャンと化していようがヒトとカネが動いている世界に行ってみよう!
需要と供給のギャップにうまくつけこんで、小さくてもいいから商売にしてみたい!
と、謎のやる気と元気をもらえた。
サクサク読み進められて、2時間もあれば読み終わることができると思うので、興味のある方はぜひ!!
へば